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「花散里」(針谷卓史著)の感想文

久しぶりに読書感想文書く。
今回はこちらの小説。

花散里 針谷卓史著 講談社BOX

「坂寄君って、付き合う前に思っていたより、面白くない人だった」
"つまらない"との烙印をを押されて彼女に捨てられた
教養学部大学生・坂寄誠一は、屈辱的な失恋のリベンジのため、見切り発車の新たな恋に走る!
パーティーで出合った能楽研究会所属の後輩・津村真衣を相手に、"ふられない"男になるべく精進する日々が始まるが・・・・・?(講談社BOOK倶楽部より)



頭でっかちの男の子の恋愛って、こんなもんだと思う。青春時代の「恋愛」と呼べしき出来事を、大人になっても夜な夜な反省会してしまう人には材料に事欠かない小説。男と女の交際をこれから、そして今同時進行中の人は予習、復習の材料にいいじゃないでしょうか。

プライドの高い女の子の恋愛って、こんなもんだと思う。と、女を見る目がない、と自覚症状のある僕が無責任に言ってみる。

まだ未読の人に、この小説を面白いか、面白くないかの二択にするとしたら、僕は面白いと答えたい。けど、人によっては、あるいはその日の気分によっては金を、時間をかえせ!と内心叫びたくなる小説かもしれない。だからお勧めするには、ちょっと躊躇ってしまう。「エレGY」と比較するとカタルシスに欠けるところ大いにあるからかもしれない。

まあ、でもなんだかんだいって自分の好きな小説だから、みんなにも読んで欲しいな、なんてね。

以下、小説を既読の方どうぞ。


美耶子さんに捨てられて傷ついた自尊心を取り戻すべく奮闘する主人公坂寄誠一と、「わたしは、幸せになりたいです」と述懐し、多くの男子を品定めすることに邁進する津村真衣。この二人のすれ違いを描いた小説、と一応まとめることができる。綺麗な愛、純粋な恋なんてものはなく、そこにあるのは暗いエゴとエゴの衝突で、しかしそれが僕達の赤裸々なリアルなんじゃなかろうか。男女の交際なんてこんなもんよ、と冷然と描くところにこの小説の価値はある。

美耶子さんは、たぶん美人だ。津村真衣と違って、作中では美耶子さんの具体的な容姿の描写はないけれど、オタクっぽい新彼氏との釣り合わなさを強調する誠一君の言葉からそれを推測することはできるし、美耶子さんの言動には自分に対する自信とプライドが感じられる、その根底にあるのは(特に女性にとって)己が容姿の華麗さだろう。美人で才気溢れる美耶子さんと付き合ってた誠一君は鼻高々だったに違いない。彼の自尊心は満たされてた。しかし突然フラれた、と誠一君は思った。傷つけられた。汚された自尊心を立て直すべくの津村真衣へのアタック。あっけなく壊された自己イメージを修復すべくの津村真衣との交際は、どこまでも暗いエゴに満ちていて、でもそれが僕の心を打つ!

あるいは。真衣への気遣い、優しさ、「愛情表現」として、彼女が打ち込んでた能楽や、能楽に代わるものとしてヨガや料理やその他もろもろに対して造詣を深めようとするけど、でもそれは言い訳だ。なんというか僕は誠一君が取った行動がわかる。でも年を経て気付くようになったけど、それは自分の知識欲もしくは教養欲というだろうか、いろんなものを吸収して成長して豊かになりたいという文系男子にありがちな曖昧で漠然な成長感、だからいかようにも自分勝手に脚色できる都合のいい成長感を感じる為の方便だ。それは誠一君自身もわかってて、だから学問や教養に対する動機が、女がらみなことに疑問はもったりするけど、さらにそこからもう一歩、じゃあ彼女の趣味に造詣を深めることが、はたして本当に彼女への好意からなのか、と自明の前提まで疑問が及ばない。比重が彼女にシフトしてない。

真衣が能楽をあっさり辞めると同時に、誠一君の能楽に対する関心が急速に薄れていく件があって、そこで彼は自分の能楽に対する不純さを意識するけど、そこでは真衣そっちのけ、となっている。極論だけど本当に真衣のためだけに能楽に関心を寄せてただけなら、能楽への不純さなどどうでもいいはずだ、と言うことはできる。そのへんのところは真衣もわかっていて

「得体の知れぬ向学心が、「わたしを理解する為」という本来の目的から離陸しつつあり不安。他の誰でもなくわたしを交際相手にしたのは何故ですか?の問いにも「君が津村真衣だから」と陳腐な答えで誤魔化した。」

とノートに書き記す。そう、誠一君は自尊心の回復や自身の成長にやっきになって、真衣のことなんか見てやいない。彼の独善的な傾向は随所に垣間見ることができる。例えば真衣の「前彼氏」で社会人の「神谷先輩」を意識して次のような独白をする。

君が三十歳になった時、刮目して日本中を見渡し給え、君に相応しい男は、この僕を措いて他には誰もいない!
君自身すら明かすことのできない君の謎を解く鍵を持っているのは、僕ただ一人だ。
ヨガに関心を持ったのは何故か?どうして東南アジアで働くことを夢みる?大学に入って真っ先に能楽研究会の戸を叩いたその訳を、君は自分で知っているか?

と、「憤懣」ものの言葉を並べる。だめだ、こいつ早くなんとかしないと!誠一君が真衣のことを暗に見下してるのがよくわかります。真衣が、いや総じて女の子が求めているのは、そんな上から目線の優しさなんかじゃなくて、もっと地に足のついた心こもるコミュニケーションではなかろうか。

美耶子さんを例にとっても、誠一君の独善的な性格はわかる。

今年の十二月初め、わたしは恋人に「面白くない人だった」と言い捨てて喫茶店を出た。付き合い始めて七ヶ月、彼はわたしに空砲の如く好きだ、好きだ、と言うけれど、そう言う彼の目はわたしに安心しきっていて、わたしとしては「そんなの恋じゃないよ!」と思う訳。

美耶子さんは寂しかったから、誠一君を試した。試したけど、それが文字通り恋人としての最後となってしまった。まあ美耶子さんと付き合ってる僕ってすごい、という独りよがりな高揚感と自尊心に満足して胡坐をかいて、いつしか無意識のうちに美耶子さんに対してぞんざいな態度を取るようになったのでしょうね。男女交際によくあるパターンです。相手の女の子が好きというより、こんな女の子と付き合っている自分が大好きだぜ、みたいな。美耶子さんの心の嘆きは、「安心」しきった誠一君の耳には届かない。

作中では誠一君と真衣はまだ別れていない。別れないかもしれないので、「まだ」という言葉はおかしいけど。ともかく美耶子さんは誠一君に別れを告げたが、真衣は彼と別れてない現実はある。その違いはどこから発生するのか。真衣の誠一君を想う気持ちが、美耶子さんのそれより上、とかそんな甘い想念じゃなくて、もっと即物的で身も蓋もない理由のように僕は考えてます。つまり美耶子さんはもう大学を卒業してしまうけど、真衣はまだまだ大学で悠長に過ごしていられる身分だからだ。なぜ誠一君の傍らに美耶子さんではなく真衣がいるかといえば、たんにそれだけの理由のような気がします。そんな男女の即物さを描いているのがこの小説の味。


真衣。彼女はプライドが高い。そうじゃなきゃ十八股なんて芸当できない。プライドが高い上に甘ったれてる。十八股をしちゃった私を受け入れて、なんて虫のいい話を平気でかます。神谷先輩はさすが社会人。そんな下衆な女とは取り合わない。ひるがえって誠一君はまだまだ子供だから、変な好奇心に惑わされて真衣との関係を断ち切れない。

アンタが誰で、どういう人間なのかなんて、関係ない。あの女は他人が持っているものを欲しがっているだけ。あ、手に入った。と想ったらすぐに興味を失う。絶対にすぐ捨てられるよ。神谷先輩の時だってそうだった。神谷先輩・・・・・

溝口野江の言葉を借りるに、真衣は他人が持っているものを欲しがる。それはつまり自分の判断基準にいまひとつ信頼を寄せることができなくて、他人の判断基準を当てにしようという心理のあらわれで、他人がいいものと思ってるものならいいものなんだろう、という自立心のない判断。真衣は自分にいまひとつ確信が持てない。わたしにはこの男でいいのだろうか、幸せになれるのだろうか。そのうえプライドが高いのだから、比較に打算を重ねるのは当たり前、そのバブルのはてが十八股。真衣の他人のものをほしがる心性にとって、美耶子さんの私小説は障害というより俄然誠一君への興味をかきたてる燃料になったのではないか。だってその私小説には美耶子さんの誠一君への好意の思いの丈が記されていたのだから。

それにしても真衣の野江に対する態度は残酷だ。野江が神谷先輩に対して恋慕している気持ちを知った上で、神谷先輩と付き合って、そして切って捨てて平然と野江と接することができる。さらには荻野と野江が交際しているのを承知の上で、荻野に隙を見せる。「わたしは歴史的な瞬間の立会い人ですね」と荻野に幻想を抱かせ、野江から荻野を取り上げようとする。カフェテリアでのこの出来事、真衣は野江と荻野の二人を見て嫉妬を感じ、二人の関係をぶち壊してやりたい衝動に駆られたと勘ぐりたくなる。またなぜここで野江は席を立ち、荻野と真衣を二人きりにさせてしまったのか疑問がわく。真衣の他人のものをほしがる心性と、荻野の真衣への秘められた気持ちを知ってるなら二人きりにさせちゃまずいのはわかっていたはずだ。

第一の理由は真衣の顔を見たくないほど、彼女を毛嫌いしていた。
第二の理由はここで荻野を試したかった。彼は自分に誕生日プレゼントまでくれた。形だけのものだったとしても、それは野江にとって嬉しくないはずはない。流れにのって、荻野の本心を知りたかった・・・。

しかしもし第二の理由だとしたら結果はあまりにも無残だ。だって、ここで荻野と真衣を二人きりにさせたことが引き金となって破局を迎えてしまったのだから。

「モノリス」「立方体」と散々バカにされる溝口野江だけど、彼女こそ登場人物の中でこう云ってよければ純情なんじゃないかな、と僕は思う。自分に素直だ。その純情さや素直が、他人から手放しで褒められるものかどうかはまた別問題だが、まっとうに生きている匂いがして僕は好感が持てる。

荻野は野江を冷たく袖にする。いまだ若者特有の誇大な自己イメージを抱える荻野にとって、相手が野江では耐えられなかっただろうけど、もしかしたら将来荻野は野江を捨てたことを後悔する日がくるかもしれない。なんか真衣、誠一君ペアよりはこちらのペアのほうがカップルとしての将来の具体的なイメージが抱けるでね。真衣、誠一君ペアはああ難しい、難しい。実社会でうまくやっていける像が描けません。というわけで、この小説のカタルシスのなさはあっぱれなほどです。


最後に脱線話。
「他の誰でもなくわたしを交際相手にしたのは何故ですか?」という真衣の問い。たとえばあなたが、この問いを恋人に問われたらどう答えますか?僕も答えに窮して、誠一君みたいに誤魔化してしまうだろう。誤魔化しとおすしかない。たぶんどんな答えであろうとその問いを提起した相手を納得させることはできない、とおぼろげながら直感してしまうからだ。なぜならその問いを発する人は、そもそも相手に満足のいく答えを求めているわけではなく、自分自身を問い質してるにすぎない気がする。問いの提起者自身が迷っているから、その迷いを都合よく消してもらおうとつい相手に問いかけてしまう構造。答えは自分で見つけるしかない。あるいは問うことを忘れる、忘れさせる。

親友に対して「なぜ僕(私)を親友にしたのですか?」と問うのは愚問で野暮だと思わないか。それと同様の雰囲気を交際相手と構築できればいいが、しばしば男女間にはエゴや虚栄、打算がまとわりつくからそうも言ってられない。男女の道の先には、結婚、家族があるけど家族なんて、大きなエゴとも言えるから、虚栄や打算がまとわりついて当然だ。友情と違って、恋愛はいろんな意味で難しいですね。
23 : 29 : 58 | 読書感想文 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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